「総合的な学習の時間」の変遷

■「総合的な学習の時間」の時間数

「総合的な学習の時間」は、小学校で2002年4月に施行された学習指導要領により創設され、小学校3.4年生は年間105単位時間、5.6年生は110単位時間が設定されました。そして、2011年4月から改定された学習指導要領により小学校3年生から6年生まで70単位時間となり、2020年4月から施行される新学習指導要領でも同じ時間数が設定されます。

※小学校1年生は「生活科」として102時間、2年生は105時間設定されています。

中学校では2003年4月に施行された学習指導要領により創設され、時間数は1年生70~100単位時間、2年生70~105単位時間、3年生70~130単位時間。そして、2012年4月から、1年生50単位時間、2年生・3年生70単位時間となり、2020年4月から施行される新学習指導要領でも同じ時間数が設定されます。

このように、2002年4月に始まった「総合的な学習の時間」は、小学校・中学校とも2012年4月から施行された学習指導要領で減らされて、今回改定される新学習指導要領に引き継がれています。これは、2002年4月に「総合的な学習の時間」が加わった際、理科や算数(数学)などの時間数が大幅に削られたことの反動が現在も続いているとも言えます。PISAなどの学力テストの結果指摘された「学力低下」対策として、理科や算数(数学)などの時間数を増やした余波を受けたと見ることも出来ます。

 

■教員の負担が大きい「総合的な学習の時間」の指導

総合的な学習の時間は、「教科横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育成、学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにする」という目的で創設され、実施されてきました。

そのため、時間だけが設定され指導内容は学校の裁量に任されることになりました。この背景には、「教科内容は学習指導要領によりがんじがらめに縛られ、特に教科を横断する学習指導ができない、もっと教員の自由に指導させて欲しい」という現場教員からの不満に応えるという側面もありました。

しかし、教科書もない、テーマも指導方法も自由という「時間」での指導は、豊富な経験と高い指導力を持つ教員でなければ十分な成果をあげることは難しいのが現実です。そのため、指導教員に負担を強いる結果になり、せっかくの「時間」を使いこなすことが出来ず、単に体験活動に終始し、「ゆとり」の時間となってしまったケースも見受けられます。

教員の負担軽減の方法として、外部の専門家を特別非常勤講師として招き講義に厚味を持たせる場合や、過去に実施された講座を受け継ぐ(自分の講座の場合は前年度の内容を繰り返す)方法を採る場合が多くなりました。

「総合的な学習の時間」の課題は、指導者が忙しく十分な準備時間がとれないため、満足のいく内容の授業を行うことができていないことです。近年、公立学校の教員に課せられる事務処理の量が激増しており、現実問題として「総合的な学習の時間」を全ての学校が有意義に活用することは極めて難しいのが実情です。

 

■学力低下論との関わり

一定数の保護者は、子どもの学力が低下した原因は教育を行う学校にあると主張しています。このような立場からは、総合的な学習の時間にも批判的な意見が唱えられ、総合的な学習の時間の方向性を考える上での混乱も生じているのが実情です。端的に言うならば、総合的な学習の時間は教科学力の向上には寄与しないので廃止すべきであるというのがこうした立場の代表的な主張です。
一方、反論として、教科学力にしか興味を示さない(テストの点数の多寡にしか興味が無い)風潮が強まっている昨今、総合的な学習の時間が担うべき役割は増しているという意見もあります。
総合的な学習の時間が具体的にどのような効果を上げるのかという問題については、以下のような議論があります。まず、肯定的な意見としては、「総合的な学習において教科で学んだことを発展させた内容を学ぶ」「総合的な学習の時間で概要を学んだ後に各教科で詳しく学ぶ」などの形態によって、さまざまな活動を有機的に結びつけることが可能であるというものです。
また、「環境教育」のように、単に知識を得るだけではなく、生活実感に基づいた個々の行動が求められる学習にこそ、総合的な学習の時間が必要とされるという考えもあります。子どもの学力は、教員や保護者の取り組み次第で向上する余地があり、「総合的な学習の時間は、教員や保護者がほんとうに子どもに必要な教育内容は何かを考える上で意義がある」という意見もあります。
一方、総合的な学習に批判的な立場からは、「教科学力は客観的評価が可能であるのに対し、総合的な学習の効果は測定不可能である。単なるお遊びの時間ではないのか」「学校・教員の違いによる効果の幅が大きすぎる」というような意見が出されています。

 

■「総合的な学習の時間」ついての私見

1975年、ヨーロッパ一人旅での体験です。ドイツ・ハイデルベルクのユースホステルで、小学生くらいの団体と泊まり合わせました。夕食後、先生の指示で、子どもたちが思い思いに旅行者の元を訪れます。私のところにも数人がやってきました。

出身国と名前を聞かれた後、「あなたの国の新聞の名前を教えてください」というのが最初の質問でした。「朝日新聞、読売新聞…」私の答えを真剣にメモします。そして次の質問と、次々に質問がでてきました。ユースホステルは様々な国の若者が利用します。先生は、ユースホステルへの宿泊を子どもたちの“学習”に利用していたのでした。おそらくドイツ以外にもヨーロッパ各国で日常行われている学習だったのでしょう。

これも「総合的な学習の時間」の一部と言えるのではないでしょうか。45年前のドイツでの体験でした。子どもたちの教育は学習指導要領に示された教科内容だけで完結するものではありません。ましてや試験のためのものではありません。

教科内容に収まりきれない学習もたくさんあります。そうした学習こそ、「総合的な学習の時間」を利用して、社会全体のバックアップのもとに行われるべきです。 「自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断する」という学習は、人間が生きて行くために必要な、思えば当たり前のことです。そうした当たり前なことを学ぶ機会である「総合的な学習の時間」はもっと大切にされるべきです。

企業・団体が行う教育支援活動は教科の時間ではなかなか活用できないのが現状です。企業・団体など学校外の機関は、良質な学習プログラムを用意して学校との連携を求めています。こうした連携の受け皿として「総合的な学習の時間」をもっと活用すべきではないでしょうか。

 

(資料)学習指導要領の中での総合的な学習の時間

時間だけが設定され指導内容は学校の裁量に任されることにより、却って指導しにくい状況であることに対応し、学習指導要領の中での「総合的な学習の時間」指導計画の作成に当たって,以下のようにある程度踏み込んだ記述がされています。

学校における全教育活動との関連の下に,目標及び内容,育てようとする資質や能力及び態度,学習活動,指導方法や指導体制,学習の評価の計画などを示すこと。地域や学校,児童の実態等に応じて,教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習,探究的な学習,児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うこと。各学校において定める目標及び内容については,日常生活や社会とのかかわりを重視すること。

育てようとする資質や能力及び態度については,例えば,学習方法に関すること,自分自身に関すること,他者や社会とのかかわりに関することなどの視点を踏まえること。

学習活動については,学校の実態に応じて,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動,児童の興味・関心に基づく課題についての学習活動,地域の人々の暮らし,伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題についての学習活動などを行うこと。

各教科,道徳,外国語活動及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け,学習や生活において生かし,それらが総合的に働くようにすること。各教科,道徳,外国語活動及び特別活動の目標及び内容との違いに留意しつつ,各学校において定める目標及び内容を踏まえた適切な学習活動を行うこと。各学校における総合的な学習の時間の名称については,各学校において適切に定めること。道徳教育の目標に基づき,道徳の時間などとの関連を考慮しながら,総合的な学習の時間の特質に応じて適切な指導をすること。

また、内容の取扱いについては,次のような配慮が求められています。各学校において定める目標及び内容に基づき,児童の学習状況に応じて教師が適切な指導を行うこと。問題の解決や探究活動の過程においては,他者と協同して問題を解決しようとする学習活動や,言語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにすること。

自然体験やボランティア活動などの社会体験,ものづくり,生産活動などの体験活動,観察・実験,見学や調査,発表や討論などの学習活動を積極的に取り入れること。体験活動については,各学校において定める目標及び内容を踏まえ,問題の解決や探究活動の過程に適切に位置付けること。

グループ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制について工夫を行うこと。学校図書館の活用,他の学校との連携,公民館,図書館,博物館等の社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携,地域の教材や学習環境の積極的な活用などの工夫を行うこと。

国際理解に関する学習を行う際には,問題の解決や探究活動に取り組むことを通して,諸外国の生活や文化などを体験したり調査したりするなどの学習活動が行われるようにすること。情報に関する学習を行う際には,問題の解決や探究活動に取り組むことを通して,情報を収集・整理・発信したり,情報が日常生活や社会に与える影響を考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること。

 


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