責任の重い「教育コーディネーター」の役割

企業や団体が無料で学校に講師を派遣して行う「講師派遣授業」は、今では多くの学校で歓迎されています。その理由として挙げられるのは、教科書だけでは説明しきれない具体的な情報やデータを、それぞれの専門家から直接学べること、学校の予算で購入できない副教材や資料を無料で提供してもらえることなどです。子どもたちにしてみれば、ふだんの授業と違う体験ができ、刺激的な時間を過ごせることです。このような授業が受けられると、学校としては「講師派遣授業」の関係者に感謝し、同じ学年で毎年実施を希望するようになります。

しかし、必ずしもうまくいくケースばかりではありません。5年ほど前、プラスエムがコーディネーターとなって行った「講師派遣授業」で、大きな失敗をしました。都内の公立中学校で行われた授業は、製紙メーカーによる環境学習がテーマでした。本業である紙ができるまでの工程をパワーポイントや映像を使ってわかりやすく説明し、各種用紙やティッシュペーパーなどの実物を回覧しました。

企業の要望を取り入れ、学校側との調整を経て、双方了解済みの授業内容であり、参観していた校長も満足そうでした。問題が起きたのは授業が終了した直後でした。

授業の記念に製品(ティッシュペーパー)をプレゼントすることになっており、その説明に立った企業担当者が説明の中で「このティッシュペーパー(メーカー名・商品名)はどこでも売っています。ぜひ買って帰ってください」と話したのです。

プレゼントの申し出があった時、商品の特徴を説明するだけということで学校の了解を取っていましたが、「買って帰ってください」という呼びかけは担当者の逸脱行為でした。営利行為とみなされても言い訳できません。しかし、その場では何の問題にならず、先生方にも感謝されて授業が終了しました。

一般的に先生方には優しい方が多く、事情を説明すれば多少の逸脱には目をつぶってくれます。しかしここで甘えることは厳に慎まなくてはなりません。そのことで、もし教育委員会や保護者からクレームが入れば、その先生や学校は非常に困ることになります。先生との信頼関係で成り立っているプラスエムは先生を困らせるわけにいきません。先生を困らせた瞬間に、“プラスエムの教育関係者とのネットワーク”は消滅し、2度と回復は出来ないのです。

授業のあと、校長から「プラスエムさん、ちょっと残ってください」と言われました。主催者を見送ったあと校長室に戻った私は、校長から「担当の先生にも確認しましたが、約束が違うのではありませんか?」と詰め寄られました。“ぜひ買って帰ってください”と、企業の担当者が生徒に話したことを校長は憂慮していたのです。授業を受けた2年生140人の中には父親がライバルメーカーに勤める生徒がいるかもしれません。保護者の反応によっては大変な問題になりかねないのです。

この件は結局杞憂に終わり、校長はプラスエムのお詫びを受け入れてくれました。誠意を尽くした対応に逆に信頼が厚くなり、数年後に転勤した後は、その学校でプラスエムが運営する事業に協力してくれるようになりました。

問題発言の企業担当者はというと、学校関係者に感謝されたことを以て、帰社後上司に「授業は大変うまくいった」と報告したことでしょう。企業・団体が無料で行う「講師派遣授業」は、社会貢献活動としても高く評価されるものですが、ほんの少しの心得違いで、せっかくの取り組みが取り返しのつかない結果をまねくこともあります。プラスエムは、そうした経験の積み重ねの中で、常に油断することなく、コーディネーターの役割を果たしているのです。


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